サラの鍵
2010年 10月 27日
今年の猛暑の東京で、私は一冊の本を夢中になって読んだ。それはタチアナ・ド・ロネの「サラの鍵」という本で、数多いナチスの犯罪の犠牲なった人達の話の中でもとりわけ強く印象に残るものだった。というのも、この本に描かれているのははナチスが発端であるとはいえ フランスの行った犯罪についてだからである。 1942年の夏、ナチスによるユダヤ人一斉検挙がヨーロッパ中で始まった頃 フランスのヴイシー政権はパリでの一斉検挙のためフランス警察を動員した。7月16から17日にかけて9千人の警察と憲兵隊員によって、パリとその郊外で13152件に及ぶユダヤ人の検挙が行われたのである。彼らの多くはパリの15区にあった競技用施設に収容され、7000人のユダヤ人たちはたったひとつの水のみ場の他はトイレもないこの場所で、何の食料も与えられずに他の収容所へ送られるまでの5日間を生き抜かねばならなかった。この事件はフランスでは「la rafle du vel d'hiv](ヴエルデイヴの一斉検挙)として知られている。脱走を試みた者は殺され、多くの人達が自殺をはかった。そこはまさに地獄であったと思う。 この小説はサラという10歳の聡明な少女の目を通して、恐ろしい検挙の朝、『一時的に」と思って大好きな弟を隠し部屋に入れて鍵をかけたままにしたこと、そしてその後に続く苦難の日々を綴っていくと同時に 現在のパリに暮らし、サラ一家と自分の夫の家族との間に運命的なつながりを発見することになるアメリカ人ジャーナリストの話を巧妙に交差させて描かれている。 驚いたことに、私が夏休みを終えてフランスに戻ってきてみると、この小説が映画化されているではないか!! 監督はジル・パク・ブレンナーで、アメリカ人ジャーナリストを演じるのはクリステイン・スコット・トーマスである。早速見に行ってみたが、映画は原作にとても忠実で 実にに素晴らしい出来であった。映画ならではのドラマテイックな演出が効いている。特に、サラが友達と収容所からの脱走に成功する場面は原作でも感動的であったが映画では彼女たちが収容所の鉄線から外に飛び出し、 野原を走り出すシーンが圧巻で、もう少しで無意味に奪い去られるところだった少女たちの生命力の美しさに圧倒され、愛おしさに胸が熱くなるシーンだ。世界中の人達に観て貰いたい。 日本でもぜひ公開してほしい映画である。 まずは、日本でも発売されている原作を読んでみてはいかがだろうか?
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by kuro_music
| 2010-10-27 01:12
| シネマ